会報「あすなろ」2025(令和7年)年4月号「スタート」
新しい年度(令和7年度)が始まりました。子ども達はそれぞれ進級・進学、これははっきりと分かりやすいスタートです。中でも入学(就職)は、違った環境から始まりますので、期待もありますが、不安があるのも事実です。そんな時こそポジティブシンキング。何事も、明るく前向きに考えていければ、不安な心を抑えていくことができます。
では“すでに社会人として生活している人にスタートはないか”というと、そんなことはありません。ちょっと興味があったことを始めてみる。こんなスタートは、人生のどこにでもあると思います。先日のモーニングショーで、伊能忠敬の人生が紹介されました。
彼は百姓家に生まれ、貧しい少年時代を送りました。その頃彼は、星の動き、暦(天文学)などに強い関心を持っていましたが、生活がやっとで学問どころではありませんでした。17歳のとき、佐原の伊能家の養子となります。伊能家は、代々名主をつとめたほどの名家でした。忠敬は懸命に働き、何度も苦難を乗り越え、貧しい農民達を助け、伊能家の資産を3倍にしたそうです。忠敬は49歳になって長男に家督を譲り、かねてから思い焦がれていた学問の道を目指し江戸に出ていきました。江戸時代の平均寿命は50歳くらいと言われますから、大きな決断だったことが分かります。江戸で彼は、幕府の天文方 高橋至時の門人になりますが、当初「門人としては年をとり過ぎている」と、なかなか弟子入りが許されなかったそうです。しかし、かつて忠敬が助けた農民達が力を貸してくれ弟子入りが許されました。以後彼は、天文学、測量術などを素晴らしい情熱でマスターし、56歳になって、正確な地図を作るため(当初は、正確な暦を作るために、正しい緯度・経度を知ることが目的でした)に旅に出ます。そして73歳で生涯を閉じるまで、彼は地図作りに励みました。
この日のモーニングショーを見て、SKIF士魂塾鶴間道場の小田支部長を思い出しました。小田先生は現在72歳。先日の支部長会議で「空手を始めたのが52歳」と話してくれました。彼は世界大会の常連で、前回(2023年8月)のハンガリー大会では、マスターズ型の部で準優勝など、現在も現役を貫いています。稽古の内容を伺ったところ「とにかく基本重視」という答えが返ってきました。我が道場も毎回30分は基本稽古をやっています。基本稽古というのは、自分では「もうできている」と思いやすく、徐々に手を抜いてしまいがちになります。基本がきちんと身に付けば、組手も強くなります。例えば短期間(小中高時代)だけ、組手試合に勝ちたいのであれば、組手の練習だけすれば、ある程度の成果は得られると思います。しかし、学生時代が終われば、やがて(体は)忘れていってしまいます。
伊能忠敬も小田先生も“分からないものを知りたい”、“少しでも強くなりたい”という情熱を燃やし続けていたからこそ、遅いスタートでも満足のいく成果を得ることができたのだと思います。どんな人生を歩んでいこうと、その根本に『知りたい』『成長したい』という人間としての欲求がないと、その情熱を燃やし続けることは出来ないのです。いい?学校に進むために、単に塾で知識を詰め込んでみたところで、それらは知恵(生きた知識)にはなり得ないはずです。人より速く進むことよりも、自分の歩く道の素晴らしさを感じながら、一歩一歩踏みしめながら、また新しい1年を歩いていってほしいと思います。そして、たった一度の人生、いくつになっても新しいスタートが切れることも忘れずにいたいものです。
「新帝国主義」
トランプ大統領は就任以来、大統領令を連発して国民に改革をアピールしています。
現在のヨーロッパの安全保障はNATO(アメリカとの軍事同盟、集団的安全保障)を基軸としています。ところがトランプ政権になって“アメリカ第一”つまり、アメリカの資源を注ぎ込んで他国を守るよりも、様々な取り引き(ディール)によってアメリカを豊かにすることのみを考えるようになりました。
今回のウクライナの停戦?も、侵略された側の国民のことなど一切無視して、NATO加盟国とも何の協議もなしに、一方的にロシアとの話し合いを進める姿勢が、世界中から非難を浴びることとなりました。この背景には、グリーンランド・イスラエルのガザ地区の所有やパナマ運河の返還を求める政策からも分かるように、トランプ大統領自身の野望(プーチンや習近平らと同じ領土拡大)が見えてくるのです。力(経済力も)による国境線の変更すら容認する姿勢には、かつてのアメリカ(大統領)が行ってきた“自由な民主主義を守る”とか“国際法を遵守する”といった高い理念はなく、“利益を獲得さえすればいい”というビジネスマン的発想しか見えてこないのです。ウクライナ戦争の停戦でも、ウクライナの国民の気持ち(一方的に領土を侵略され、国民の命が奪われている)などどうでもよく、豊富なレアメタルを入手することと、自身のノーベル平和賞受賞を狙っているとしか思えないのです。
ロシアは2014年、ロシア系住民の保護を口実に、ウクライナの領土だったクリミア半島を占領しました。国際社会も事実上それを認め(クリミア併合を認めればプーチンの野望も収まると考え)、クリミアはロシアに併合されました。さらにプーチンは「ウクライナの東部4州で、ロシア系住民が迫害を受けている」との口実で、再びウクライナに軍事侵攻して、東部4州の大部分を占領。そして今、ゼレンスキー氏を飛び越えて、トランプとプーチンが主導する停戦案が取り沙汰されています。これはまさに1938年に行われたミュンヘン会談の経過と同じです。当時、ナチスドイツは「(チェコスロバキアの)ズデーテン地方ではドイツ人が迫害されている。分割してドイツに併合しなければならない」と主張、会談の結果、イギリスとフランス、イタリアはドイツによるズデーテン地方併合を(ドイツがそれ以上領土拡大しないことを条件に)認めました。強硬なドイツと全面戦争になるのを恐れたのです。しかし、イギリスやフランスの弱腰を見たヒトラーは、ズデーテン地方だけでなく、チェコ全域を軍事侵攻し占領してしまいます。さらにヒトラーはポーランドに侵攻して、第二次世界大戦が勃発するのです。当時のナチスドイツが今のロシア、ウクライナがチェコスロバキアであると置き換えてみると、今ウクライナで起こっていることは、第二次世界大戦前と全く同じです。アメリカに頼れなくなったヨーロッパは、軍拡へと舵を切り始めました。最終的にプーチンを止められるのは『核』の力しかないと、フランスの核の傘を広げようとする試みが現実味を帯びてきました。
“人類はそれほどバカではない”と信じたいですが、どんな未来が人類を待ち受けているのか、注視していきたいです。
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