会報『あすなろ』2016年6月号

支部長の独り言 『カニ足…』

先月の初旬に、いろいろな道場との指導者稽古(併せて色帯の練習会)が行われました。いろいろな道場で指導する指導者との交流は、いろいろなものが得られ、今後の当道場の指導にも生かされていくと思います。そんな中で、当道場の髙浦先生から「今世界の空手の最先端の立ち方はカニ足である」という情報提供がなされました。前後に俊敏に移動するには、フェイシングの立ち方(カニ足)・移動の仕方が最も優れていて、全日本のトップ選手も、その動きを取り入れている選手が増えているというのです。長年にわたり木更津総合高等学校空手部のコーチをされており、空手道全般に関する知識も豊富な髙浦先生の情報ですから、今後の指導の中にカニ足を取り入れる道場も増えてくるかもしれません。


ここで再び『武道(人生)論』です。
“試合に勝つための最善の方法を選択する”このことに限って言えばカニ足という選択もあるかもしれません。ただ、この発想は私が最も危惧しているものの1つでもあります。以前にも述べたことですが、柔道が世界のJUDOになった時に失ったものは、あまりにも大きいと思うのです。武道を単なるゲームの勝ち負けと同じレベルに引き下ろしてしまったのですから…。武道では(相手の隙を見出すために動きを探り合い)動けないときがあるものです。その互いの『目に見えない心の戦い』を読み取れない観客は「動きがないからつまらない」となり「もっと積極的に攻めるように『指導』を与えよう」などと、見ている側の面白さを重視したルールに変えられていきます。フェイシングの前後の俊敏な動きは、剣だから(弱い力でも刺されば相手は倒れる)こその動きであり、拳ではタッチするだけ(ルール的には、それでポイントゲット)で、相手を倒すような力は生まれてこないのです。しかし、日本人空手家の多くが(どんどん西洋人が面白いと思うルールが変わっていく)世界大会で勝つこと(多くの日本人が、日本の全国大会の優勝より、世界大会の優勝の方が優れていると思ってしまう) を目指すようになれば、大切な人を守ったり、複数の敵(カニ足は、横方向にはほとんど動けない)から我が身を守る力を得ること、体を鍛えるだけでなく、人生を学ぶ…。などという発想すらなくなっていってしまうのです。それはすでに空手道ではなく,KARATEという全く別のものなのです。
空手の大会で優勝しても、その先大金が稼げる訳でも、素晴らしい人生を生き抜く力が得られる訳でもないのです。我が道場生のR君のように、入門した頃は弱々しく「いじめの対象になってしまうのでは?」という不安さえあった子が、地道に努力を続け、大人と対等に戦える力を付けるようになりました。彼は、決してお金では手に入れることのできない強さ・肉体を手に入れつつあります。この力は彼のこれからの人生にとって、限りない自信を与えてくれるはずです。ただ、やはり全空連の試合でも「勝ちたい」と思うのが人情です。ですから、当道場は『どんなルールでも強い』空手を目指したいと思います。全空連の試合でも勝ちたいと思う道場生には、全空連の会員にもなり、全小・全中も目指して欲しいと思います。勝つための「カニ足」も必要に応じて、取り入れたいと思います。

支部長 重田紀元

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