会報「あすなろ」2024(令和6年)年6月号「言霊」
今シーズンからドジャースに移籍、オフシーズン中に結婚を発表して世界中をびっくりさせた大谷選手。彼が高校時代に人生の設計図を作成し、それを見事に達成してきていることは、あまりに有名です。日本には『言霊』という発想があります。良い言葉を発すれば、本当に良いことが起こり、逆に、不吉な言葉は災いをもたらす。ともすればオカルトのように扱われがちな概念ですが、このことは最新の脳科学で、言葉がいかに人間の行動の成否を左右するかが証明されているのです。近年の研究によると、人間は頭の中で思い描いているイメージよりも、口から発した言葉に影響されやすいことがわかっています。どんなに脳内で成功のイメージを描いていても、ふと不安になり「ヤバい、どうしよう」とつぶやいてしまえば、脳は一気に成功のイメージの上に、失敗のイメージを上書きしてしまうというのです。どんな言葉を発するかは、脳のパフォーマンスに重大な影響を及ぼすのです。「無理だと思わないことが一番大事だと思います。無理だと思ったら終わりです」と大谷選手も言っています。彼は、驚くような目標を臆することなく公言します。さりとて、虚勢を張っている様子も、自分に過度なプレッシャーをかけ、悲壮感を漂わせることもなく、あくまで自然体です。これまで、スポーツにおけるメンタル管理の世界では、常に状況を楽観的に捉えるポジティブシンキングや、ピンチの際に自分を奮い立たせることが重要とされてきました。しかし現在の脳科学において、最も高いパフォーマンスにつながるとされるのは、大谷のような自然体だとされています。ネガティブでもポジティブでもない『ニュートラル』の状態を常に維持することだというのです。スポーツドクターの辻秀一氏は「掲げた結果を達成するために思考を変えていく行為は、短期的には上手くいくかもしれませんが、いずれ無理が出てくる。その点、いつ何時でも自然体の自分で臨めれば、脳も肉体も高いパフォーマンスを発揮することができる。勝つことや、良いスコアを出すことを意識しすぎることなく、これから臨む一球、一スイングに全神経を研ぎ澄ます。私の見る限り、大谷選手はそれがもっとも優れているアスリートの一人です」と語っています。
「今ここ」に集中し、心に揺らぎがない状態を作り出す。これを心理学では『フロー』と言うそうです。「一流のピッチャーになるんだとか、一流のバッターになるんだとか思っていたわけじゃない。いいバッティングをしたい。いいピッチングをしたい。いつもそれを望んできました。ホームランを狙うということはなく、良い角度でボールに当てるというのが一番」こうした大谷選手の言葉の数々は、彼が人生の早い段階から、いかにフローの状態でプレーすることを模索してきたかを感じさせるのです。
こんな格好の良いことを書いている私は、ゴルフ場に行くと「遠くに飛ばしたい」「良いスコアで上がりたい」と邪念の連発。結果、練習の成果はどこへやら…。しかし、懲りもせずフローを目指して頑張っていこうと思っています。もちろん空手の稽古も…。
信 頼
相変わらず大活躍の大谷選手ですが、今年は誰もが信頼できる相棒と思っていた通訳の水原一平氏の裏切りのために、開幕から相当な精神的ダメージを負ってしまいました。
“寝る子は育つ”という言葉がありますが、大谷選手は、その睡眠の長さも有名です。それがシーズン初めは「あまり寝られなかった」と、後日明かしています。しかし「精神的な問題は、技術がしっかりしていればカバーできる」と、横領事件発覚後も素晴らしい成績を残してきました。もちろんその陰には、結婚して常に側にいて見守ってくれる人がいたことが大きな要因であるはずです。
人生で一番最初に築かれる信頼関係は親子の絆です。人間は地球上で最も独り立ちが遅い生物です。何年も親の庇護を受けながら、いろいろなことを学び成長します。今うちに来ている道場生も、まさに成長の真っ最中です。何度か話題に挙げましたが、うちの生徒は、どちらかというと運動があまり得意でない子が多いです。ですから、今すぐ大会に出て好成績を挙げるのは、なかなか厳しいと思われます。特に基本の「後屈立ち」「蹴り…前蹴、蹴込み、蹴上げ、回蹴」がきちんとできる子はほとんどいません。私も、これらの基本ができる(今でも完璧にはできませんが…)ようになるまで、何年もかかりました。しかし稽古の出席率の高い子は、少しずつでも確実に向上しています。このまま続いていれば、きっと素晴らしい『力』を手にすることができるはずです。
先日ある小学校の前を通ったときに、金髪の小さな子がいました。最近は外国籍の子も多いから…と思ったら、日本人(の顔)でした。無邪気に校庭で遊んでいるその子を見て「ちょっとかわいそうな子だな」と思ったのです。その子の親は「そんなことでしか、我が子の存在を周囲に示せないのか」と思うと残念な気持ちになりました。じっくり子どもの成長を見届け、我が子が何を誇れるのかをしっかり見極めてやるのが親だと思うのです。安直に他人と違う格好をさせ「個性だ」と主張するより、どんなに普通の格好をしていても、絶対に他の人では持っていない『自分』に気づかせてやるのが親なんだと思います。
コロナを境に、我が子の稽古姿を見学する親御さんは、ほとんどいなくなりました。できれば月に1回でも、稽古の様子を見て欲しいと思います。そして一言でいいですから、頑張っている姿を褒めてあげて欲しいです。人生最初の信頼の絆を持つ親の励ましは、子にとって何より嬉しいものです。

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