会報「あすなろ」2024(令和6年)年2月号「潜伏期」
私たちの身の回りには、コロナやインフルエンザのようなウイルスだけでなく、
たくさんの病原菌がいます。それが体の中に入るとすぐ病気になるかといえば、
そうではありません。体には『免疫』という仕組みがあり、通常侵入した菌は撃
退されてしまいます。ところが、体が弱っている時や、精神的にまいっている時
(まさに「病は気から」)などは、免疫の作用が衰え、体内で病原菌が増えていき
ます。そして、菌がある一定の量にまで増殖していくと「頭が痛い」とか「熱が
出る」など病気の症状が出てきます。潜伏期とは、このように病原菌が体内に
入ってから、発病するまでの期間を言います。
実はこの潜伏期は、病気だけでなく、学習や運動についても同じように存在し
ます。例えばテニスや野球で、今日めちゃくちゃ素振りの練習をしたから、即明
日から打てるようになるかといえば、残念ながらなりません。これは過去に何度
か述べたように、脳がしようとした運動を筋肉に伝えていく神経回路が形成する
まで時間がかかることによります。学習も同じです。今日勉強したとしても、成
績は上がりません。学習における潜伏期(勉強を始めてから、成績が上がるまで)
は個人差もありますが、およそ3ヶ月と言われています。つまりこの3ヶ月は勉
強しても成績は上がらないのです。しかし、この3ヶ月の間、脳の中では川の堤
防が崩れる時と同じような変化が起こっています。初め、いろいろな部分から水
が少しずつしみ出して(脳の中で知識の断片がつながっていき、次々に新しい神経
回路のネットワークが作られている)きます。それはやがて、少しずつ目に見える
ようになり、削られた土の量が増えていき、ある時一気に水が流れ出し(知識の
ネットワークがどんどんつながる)堤防が決壊(成績がぐんぐん上がっていく)しま
す。
勉強やスポーツが苦手な子が抱える共通点は“潜伏期の存在を知らない”ことだと
思っています。勉強もスポーツも「できなくてイイ」と思う人はいないのです。実
際1週間とか、何らかの努力をするのですが『結果』がでないため「やっぱり自分
には才能がないんだ」となってしまうのです。僅か1週間でも“体の中では、着々と
準備ができている”ことを認識できることが重要なのです。稽古をほとんど休まない
子は、ある時からぐんぐんうまく、強くなっていきます。ところが稽古の足りない子
(せっかくその日に努力した結果が、つながる前に薄れていってしまう)は、なかなか
上達しません。たいていの子が「自分に○○は、合っていないんだ」と諦めてしまう
のです。
私が道場生に空手を学び続けて欲しいと願うのは、目先の試合で勝利する(それが
目標であっても良いとは思いますが…)ことではなく、自分と大切な人を守れる力を
持って、たった一度の人生に幸せを感じて生きていくこと。死の直前(残念ながら死
なない人はいません)「あ~幸せな人生だったな~」と言えるような人生を、多くの
道場生に送って欲しいのです。
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